「っせんぱ……やめ、て」
 そう言う三木の目は、明らかに「続けろ」と訴えている。けれど佐久間が何かをしようとする前に、三木は声を出すと同時に佐久間を強く抱き締めた。
 どうやら三木は、本心かはともかく自ら制止の言葉を口に出すことで、無理矢理「先輩に苛められる自分」を演出して興奮しているらしかった。現に今も、三木のものを扱いている佐久間の手を、止めさせる気など全く感じられないほど弱い力で掴んで嫌だ嫌だと首を振っている。
「お前って、Mやったんか?」
 佐久間はいやらしさも驚きも何もない声で言った。手は、未だ三木のものをゆるく扱き続けている。
「え……?」
 一旦目を見張った後眠そうに瞬きをした三木を見て、佐久間は確信した。恋愛や性交についての確かな知識などはろくに持ち合わせていないため今も四苦八苦しているが、三木の表情を読むことには些かの自信があった。
 手の動きはそのままに、佐久間は三木の肩に顔を埋めた。三木は戸惑っているのか、ただ単に快感に溺れているだけなのか、震えた声で「なんですか」と言った。
「お前って結構変態やったんやな」
「先輩に言われたない、です……」
 言葉に詰まったが、まだ足りないらしい。
「やめてって、ほんまはやめてほしないんちゃうん」
「そんなことは……っ」
 三木の肩に触れている額に、熱が伝わってくる。顔を上げれば視界に入る真っ赤な耳。佐久間は一旦手を止めて三木の反応を見ることにする。
「お前、Mやから苛められて興奮して、自分の喘ぎ声にまで興奮するとかいうド変態ちゃうんか」
「ひ、酷い! そこまでちゃうもん!」
「そこまでちゃう、ってことは変態には心当たりあるんか」
「なんでそうなるん?!」
「いや、なんとなく」
 何の感情も含まず、佐久間はまた手の動きを再開した。少しでも気を抜くと、なぜ自ら進んで後輩に快感を与えようとしているのか冷静に考え込んでしまいそうだったが、きっと三木にとっても自分にとっても良いことではないだろうと思い考えることをやめた。
 三木は一定のリズムで荒い息を吐き出しながら、佐久間に悩ましい視線を向けていた。佐久間がそれに気付かぬふりをしていると、耳元で、十分すぎるほどの熱を持った声が恥ずかしげに告げる。
「先輩っ、おねがい……やめんといて、もっとして……!」
「ちょ……っと、三木お前」
「陽彦さ、ん」
 柔和な目は色を帯びて、三木はただただ快感が欲しいと佐久間の名を呼んだ。佐久間は何を言われたかを理解する前に、ぞわぞわと全身を駆け上がってきた行き場のない熱を、三木を絶頂に至らしめることで上手く逃がそうとした。
 耳元でほんの数秒、いつものゆったりとした声からは想像もつかないような、苦しげで官能的な喘ぎが聞こえた後、佐久間の肩に三木の頭が落ちた。息が上がっている。
「ごめ……な、さい……」
 掠れるような声で謝られた時ようやく、佐久間は自分の掌で三木の精液を受け止めたことを知った。
(俺のと変わらん、当たり前や)
 そう思うと不思議と嫌悪感も何もかったが、それよりも、三木の行動や声に興奮した自分がいたことに困惑していた。ズボンを押し上げる確かな熱が収まることはいよいよなく、むしろ、
「気持ちよかったです、先輩」
 と言って恥ずかしげに笑った三木を見れば、痛いほどにその熱は膨れ上がってしまった。

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