「ねえ、アルの気持ちいいとこ教えて」
「……一体これからなんのプレイをさせられんだ、俺は……」
 閉店時間をとうに過ぎた真夜中の本屋。その裏のスタッフルームよりもさらに奥の部屋で、アルフレッドはテオに押し倒されていた。大分前、彼に譲ってやった一人用の大きなベッドは、どちらかが少し動くだけで小さく軋む音がする。
 自分より二十センチほど低い相手でも、覆い被さって来られれば逃げ道を絶たれたように感じるものなんだな、とアルフレッドは他人事のように思う。いつもとは逆の立場だということもあって落ち着かなかったが、焦りをテオに悟られることだけは避けたかった。そのため、今すぐにでもテオを押し倒し返して、いつも通り自分が彼をリードしたいという欲求はひとまず心の奥底に隠した。
 それにしても、性行為に関係する全てのことに対して消極的で、自分から進んでベッドに行きたがらなかったテオがいきなり、「今日は僕がアルに気持ちいいことしたい」などと言い出したことは完全に予想外だった。
 確かに今まで料理の仕込みを理由に居残るたび、アルフレッドはテオに「気持ちいいこと」を一つずつ教えてきた。彼はまだ十四歳だが思春期の割にそういうことに疎かったため、一から教えるには結構な時間を要したが、テオが愛しくて堪らないアルフレッドにとっては苦労でもなんでもなかった。その上彼は教わったことをすぐに受け入れる素直さと、一度されたことはすぐに自分のものにしてしまう物覚えの良さを持ち合わせており、教え甲斐もあった。
 アルフレッドは教える側で、テオは教えられる側だった。それゆえアルフレッドは油断していたのだ。いつの間にか、彼も男だという意識が抜け落ちていたと気付き、感慨深そうに呟く。
「お前もちゃんと、男だったんだよなあ」
「女の子だと思ってたの?」
「違う違う。誰かを押し倒したい欲があったんだなって意味」
 詳しく説明してやっても、テオは首を傾げたままだった。どこまでも純粋な彼を見てアルフレッドは微笑む。そして、少しくらいならされるがままになってもいいかと、誘うようにテオの腰に手を回した。
「で、これから何してくれんの?」
「アルが気持ちよくなれること。僕はまだよくわからないからアルが教えて」
「テオならなんでもいいよ。好きにしろ」
「それじゃ困る……。ちゃんと出来ない……」
「律儀だなあ、お前も」
 本当に、テオならなんでもいいのに。そう言ったが、思いきりうなだれてしまった彼が可哀想で、彼の頬を指で撫でながら、
「じゃあ、舌入れねぇキスして。いっぱい」
 と言って笑ってやった。その瞬間テオの表情はぱっと明るくなり、飛びつくようにしてアルフレッドの胸に顔を埋めた。全体重をかけないようにするためか、隣に寝転がるような姿勢になる。聞いてるか、とアルフレッドが背中を軽く叩くと、テオは肘で上体を支えるようにして起き上がり、キスをした。唇に柔らかいものが触れる。追いかける間もなくすぐに離れて、また触れ合う。ちゅ、ちゅ、とごく小さな音を立てて二人は触れるだけのキスを何度も繰り返した。
 犬にじゃれつかれてるみたいだ、とアルフレッドは心の中で呟く。夢中でキスをするテオが愛しくて、思わず笑みがこぼれた。
「アル、うれしいの?」
「嬉しいよ。舌入れねぇ方がくすぐったくて好きなのかもな」
「ねえ、次は? 次はなにしてほしい?」
 味を占めたらしいテオは、あからさまに浮かれた声で聞いてくる。嬉しいと言われただけですっかり舞い上がってしまったのか、次は次はとアルフレッドを急かした。あまりにもテオが乗り気なので、
「ええー……まだ言わなきゃいけねぇの。困るな」
 と、わざとやる気のない返事をしたが、もちろんこれ以上を望まないわけではない。
 寝返りを打って隣に寝転がるテオと身体ごと向き合えば、まだ幼い彼の頬が赤くなっているのがわかる。キスだけで恥じらうようではこれ以上はさせられないと、アルフレッドは冷静に欲望を抑えた。無理をしているわけではない。テオが自らの意志でキスをしてくれたというだけで、アルフレッドも少なからず浮かれてしまっているのだった。
「さて、真面目に料理の仕込みするか」
 という声はしかし、テオの真っ直ぐな眼差しと震える手によって遮られた。
「じゃあ、ここは……」
 彼は消え入りそうな声でそう言うと、アルフレッドの下腹に手を置いた。本当はもう少し下に触れたかったのだろうが、羞恥心が邪魔をしたのだろう。
 どういう風の吹き回しだ、とアルフレッドは思わず顔が引きつった。何度かテオと身体を重ねている彼にはよくわかったのだ。今日はまだ終わらない、そして自分が快楽を与える側ではなく、快楽を貰う側から動けはしないのだろうと。
 以前までのテオなら、当たり前のようにキスで終わらせようとした。全ては羞恥の一言に集約され、決して自分から先に進もうとはしない。アルフレッドが手を引くように行為に導けばちゃんとついて来たが、されるがままと言うに等しかった。
 正直この成長が嬉しくないわけがなかったが、手放しに喜べるほどアルフレッドは身軽な立場ではなかった。テオにいやらしいことをした罪悪感も、それに興味が湧くように教え込んだ自分への嫌悪感も、まだ完全に払拭できていない。彼の兄貴分としての自尊心だってある。
 アルフレッドがあからさまに返事に困っていることを察したのか、テオは急かすように彼の頬に手を添えた。
「僕じゃ出来ない? 足りない?」
 愚問だと言わんばかりにアルフレッドは即答する。
「十分すぎるから困ってんだ」
 それを聞いたテオは慈愛に満ちた表情を浮かべると、
「アルが思い悩むんだから、きっとアルのことじゃなくて、僕を思ってのことなんだろうね」
 と優しく呟いた。その表情に心底弱いアルフレッドは胸の奥が苦しくなり、何も言えなくなる。どんな時もテオのことばかりを優先してきたかもしれないとようやく自覚し、そして自分が思っている以上にテオに心を見透かされているのだ、とも思った。
 ここまで知られているなら、と開き直ろうとする心にブレーキをかけるように言う。我ながら格好悪いことだと思ったが、テオの前では取り繕うだけ無駄なのだと今までの経験からよく知っている。
「ほんとに、やるのか? こっから先を。俺はきっと止められねぇぞ」
「止めなくていいよ。僕はアルを気持ちよくしたいんだ。それともアルが嫌?」
「嫌なわけねぇ……けど、やっぱりお前にさせるのは」
「アルが望むなら、なんだってしたいんだ」
 きっと無意識なのだろう、けれどいつもテオに向けている言葉をそのまま返されたことが、アルフレッドはとてつもなく嬉しかった。敵わねぇなと苦笑して、テオの頭を優しく撫でる。
「じゃあ、テオにしてほしい」
「うん。僕がんばるね」
 テオはそう言って、無邪気に笑った。

 お互いの意志を確認したからとて、それからスムーズに事が運ぶわけではない。何せ相手はテオだ、そんなことは期待していない。
 しかし、だからといって。
「服脱がすのが恥ずかしいって……お前の恥ずかしいの基準はつくづくよくわかんねぇよ」
「だ、だって……」
「脱がされるより脱がすほうが恥ずかしいってかなりおかしいと思うぜ。まあ、そのおかげで俺は恥ずかしい思いせずに済んだんだろうけどな」
「うぅ……」
 一度ベッドから降りて服を脱ぎながら、アルフレッドは深く溜息をついた。同性だからという以前のところに問題があって、先は長そうだと思ったからだ。しかしそんなところも含めて楽しもうとしている自分もいることに気付き、人のことを言えない、ともう一度息を吐き出した。
 一方テオは一人ベッドに取り残されたまま、なぜか正座をしてアルフレッドの脱衣をじっと見ている。彼なりに羞恥と戦った結果らしかったが、痛いほど刺さる視線の先でズボンを脱ぐのは、さすがのアルフレッドもかなり気まずかった。そうしてとうとう上半身もカッターシャツ一枚だけになった時、
「アルの下着、僕のと形が違うね」
 と、テオが目を泳がせながらどうでもいいことを言い出したので、思わず笑ってしまった。
「テオってボクサーしか穿いたことなかったか? トランクスは楽だぞ」
「僕は……しばらくはこのままでいいかな。落ち着かないから」
 テオがようやく目を離した隙に下着も脱ぎ捨てた。シャツのおかげで股下まで上手く隠れていて、特に恥ずかしさを感じることはなかった。
 ベッドの上で畏まって小さくなっているテオの隣に、アルフレッドは壁に背をつけるようにして座る。足は少し開きながら投げ出して、その間に座るようにと促した。
「こっち来いよ」
 テオは真っ赤な顔をこちらに向けて一瞬硬直したあと、素早くアルフレッドの足の間に収まった。甘えるように胸に頬を擦り寄せて小さく笑う。猫のような仕草をするテオの頭を撫でながら、アルフレッドは速くなりそうな胸の鼓動を抑えることに精一杯だった。
 そんな心境に気付いているのかいないのか、テオは下から顔を覗き込むようにして尋ねる。
「触ってもいい?」
 どこを、とはまだ恥ずかしくて言えないらしい。アルフレッドはごくりと唾を飲み込んでからなんとか冷静さを保って、
「いいよ」
 と短く答えると、テオはシャツの裾から手を入れて身体に触れた。割れ物を扱うように慎重に、しかし掌になんの力も込めずに撫でる。それが太ももから腰に移動したことで、今までシャツで隠れていた性器が露わになった。その瞬間テオは動きを止めたが、上目遣いでアルフレッドに合図を送ると、迷いなくそこに手を伸ばした。
「……んっ」
 ゆっくり触れられて、アルフレッドの口から思わず怯えたような声が漏れた。経験の浅いテオは戸惑っているのか、下から顔を覗き込みながら恐る恐る手を動かす。その動きは扱くというよりただ撫でるだけのような優しいもので、アルフレッドを快楽に引きずり落とそうという意志は感じられなかった。
 はっきり言って生ぬるい刺激だ。ずっとこれを続けられたところで絶頂に達するのは難しいだろう。
 微弱な波に身体を預けるように力を抜いて、アルフレッドは目の前で表情を固くするテオに口付ける。先ほどのような触れるだけのキスはやめて、早々に舌を入れた。もどかしさを逃すようにテオの口内を一心不乱に探る。
「アル……んぁあっ」
 上顎を舐めた瞬間テオが喘ぎ声を漏らし、逃げるように身を引こうとしたが、アルフレッドは腰に手を回してそれを阻止した。角度を変えて更に深く舌を潜り込ませると、しつこく上顎を舐めるたびにテオはびくびくと背中をしならせた。それに合わせて背筋に指を這わせれば、声にならない声が漏れ出す。
 しかしテオはそんな余裕のない状況で物覚えの良さをここぞとばかりに発揮し、アルフレッドと同じように舌を伸ばして上顎を刺激してきた。先ほどのテオからは想像もつかないような巧みな動きに、アルフレッドは大きく震え上がる。
「はっ、んん……、テオ、待て……っ」
「アル……はぁっ、気持ちいい?」
 制止を促したアルフレッドに構わず、テオは口内を犯し続けた。いつもの消極的な動きは見る影もない。舌と舌を擦り合わせるような動きに、アルフレッドは徐々に下腹部に熱が集まるのを感じた。ぞくぞくと密かに腰を震わせれば、テオに性器を触れられていたのだと他人事のように思い出す。そう思い出した途端意識はテオの掌に向けられ、生ぬるいと感じていた動きでさえ、確かな快感として反応せざるを得なくなってしまった。
「あぁっ、テオ、待てって……」
「待たないよ。アル、やっとエッチな顔になってきたもん」
 テオはキスをやめると、アルフレッドの顔をまじまじと見つめてそう呟いた。その声からはもう戸惑いや不安は一切感じられず、しかし男としての興奮のようなものが見え隠れしていて、アルフレッドは目を細めた。
 自分はいつか、ずっと可愛がってきた愛しい弟分であるテオに滅茶苦茶にされる時を待ち望んでいたのかもしれない。のぼせた頭でそんなことを思う。
 快楽の理由を客観的に分析するのも束の間、いよいよテオの手はアルフレッドに快感を与えるための動きに切り替わった。容赦なく性器を扱かれる。
「はあっ……、あ、っく……うぅ……」
 アルフレッドは弱々しい力でテオの肩を掴みながら喘いだ。何度かテオを抱いたことがあるが、こんなに苦しかったことはない。それ以前にも付き合っていた女性と身体を重ねたことがあったが、こんなに声を上げたことはない。
 だからアルフレッドは今少し混乱していた。勝手に声が漏れる感覚も、好きな人にその姿を見られて羞恥心を煽られる感覚も、こんなものは知らない、と思う。そして今自分の性器に触れているのがテオだという目の前の事実に目眩がした。「セックス」という単語を口に出すことすら嫌がっていた彼のどこにこんな欲があったのかと、少し恐ろしくなる。
 腰からぞくぞくと背中を駆け上がる快楽から逃れるように目を閉じても、テオのぎらつく視線を感じた。見られているということに確かな羞恥を感じながらも、アルフレッドは顔を隠したり背けたりすることはしなかった。テオになら何を見られてもいいと、そう思ったからだ。口から漏れる喘ぎ声の代わりに、
「テオ……、俺はっ、テオを……」
 と名を呼べば、話し終える前にテオが膝立ちになって優しくキスをした。彼らしい、可愛らしい触れるだけのキスだ。ゆっくり目を開けてテオと視線が交わったと思えば、すぐに手の動きが再開される。予告なく襲いかかる刺激にアルフレッドは再び目を閉じ、身体を丸めて耐える。もう何も考えられないと思った途端、
「僕を男の子にしたのはアルだよ。僕が欲しいのも、気持ちいいをあげたいのもアルだけ」
 と、真っ直ぐな言葉が降ってきた。何か返事をしたくても、アルフレッドは喘ぎながら快感を受け流すことに精一杯だ。
 テオは続ける。
「僕、今すごく興奮してる。今までずっとアルと一緒に過ごしてきて、ずっとアルを見てきたけど、今日みたいにエッチな顔してるアルは初めて見たから。嬉しいなって、可愛いなって思うよ」
 アルフレッドは顔が一気に熱くなるのを感じた。テオの言葉がいつにもまして心に刺さる。彼の言葉や行動の大半はアルフレッドが教えてきたものだが、こんなふうに人を興奮させるような言葉は教えてないはずだ、と小さく首を振る。額から汗が流れてきて頬がくすぐったい。荒い息を吐き出しながらアルフレッドがテオを乱暴に抱き寄せると、流れ落ちる汗を舐め取られた。
 それが引き金になったのか、視界がぐらついて絶頂が近いことを悟る。小さな背中を掻き抱いて、それでも決して傷は付けないように細心の注意を払った。アルフレッドの限界を察したテオも単調だった手の動きを変え、緩急をつけて良いところを攻め立てる。
「アル大丈夫? びくってするの、きちゃう?」
 普段なら笑ってしまうほどの拙い物言いにも、今の余裕のないアルフレッドは何一つ反応を示すことが出来なかった。しかしテオが何かを言うたび、耳元に息がかかって堪らない。アルフレッドは普段から耳元で内緒話をされることさえ躊躇うほど、耳への刺激に弱かった。その上、興奮状態のテオの声色がいつもより色っぽく、快楽は倍以上に膨れ上がった。
「んん、っテオ……、ごめん、もう……っ」
 痛いほどの快感が頭に上ってくる。心臓を鷲掴みにされたような苦しさと、テオを愛しく思う暖かい感情が胸の中で渦巻いている。目を開けたままではどうしても冷静さが残っている気がして瞼を下ろす。自然と眉間に皺が寄っているのがわかった。
 たゆたうようにテオに身体を預ければ、もう怖いものは何もない。年上としての面子も、どんな時も手放さなかった理性も、どうでもいいとさえ思った。
「テオ……、耳元でっ、好きって……言って、くれ……!」
 アルフレッドの言葉はあっさりと受け入れられ、テオは間髪入れずに、
「好きだよ、アル。いつものかっこいいアルも、今みたいにエッチで可愛いアルも、大好き」
 と耳元で囁いた。一つひとつの言葉が快感となって全身を駆け巡り、アルフレッドは大きく震えながらテオの手の中に欲を吐き出した。
「んあ、ああっ! ぅう〜っ……!」
 自分はこんな恥ずかしい声が出せたのか、とアルフレッドが客観的に考えられるようになったのは、絶頂を迎えてから一分ほど経ってからだった。その間テオは全く動かず、二人一緒に余韻に浸っていた。
 アルフレッドが火照った身体を静かに離してテオと向き合うと、小さな手で受け止めきれなかった精液が彼の服を汚しているのが見える。抱き合って密着していたからだろう、パーカーもズボンも汚れている。そのことについてアルフレッドはみっともないと頭を抱えたくなったが、それよりも、べっとりと手に付いた精液をテオが興味深そうに見ている事実に、誰彼かまわず謝罪して回りたいような気分になった。
「ごめん、いっぱい汚しちまった。手、拭くから……あと、服も洗濯するから脱げ」
 アルフレッドは息を整えてから、ベッドの脇に置いてあったティッシュの箱を持ってきて、滅茶苦茶な量を引っ張り出した。この時ようやく、自分が少し混乱している、ということがわかったのだった。
 テオはまだぼーっとしており、アルフレッドに手を拭かれている間も何も言わない。ただ顔も耳も真っ赤にしながら俯くだけだった。恥ずかしかったのか、それとも俺が取り乱したからか、とアルフレッドの心にはまた罪悪感が募る。何を言っても逆効果な気がして、黙ってテオの掌を拭ってやることしか出来なかった。
 しばらく二人の間には沈黙が流れたが、綺麗になったのに手を拭き続けるわけにもいかず、アルフレッドは恐る恐る沈黙を破った。
「後で手、洗って来いな。気持ち悪いだろ。服は俺が自分のと一緒に洗っとくから、脱いでくれ」
 するとテオはいきなりその場で膝を抱えて小さくなった。足もぴたりと閉じて、とても服を脱げる格好ではない。
 彼のよくわからない行動にアルフレッドが首を傾げながら、
「おい、俺が悪かったんなら謝るから……」
 と、弱々しい声で伝えると、テオはようやく顔を上げた。相変わらず真っ赤だが、そこにあるのは恥ずかしさだけではなかった。
「やだ、脱げない、見ないで……」
 困った表情をしながらも、そこには確かな興奮と色欲、彼自身では制御しきれないものが滲み出ていた。なんで今頃、とアルフレッドは一瞬不思議に思ったが、テオの閉じられた足の隙間から見える違和感に気付きようやく合点がいった。
 テオは、アルフレッドのものを扱くうちに興奮を覚え、自分でもよくわからないままに勃起してしまったのだ。
「テオ、お前……」
 アルフレッドが視線でそのことを示唆すると、テオはへらりと力無く笑いながら、いつもよりも色っぽく気怠げな声で告げた。
「僕も……、アルのエッチな声聞いてたら、気持ちよくなりたくなっちゃった、かも……」
 言いながら、彼は完全に無意識だろうが、もじもじと膝頭を擦り合わせて興奮に耐えている様子をアルフレッドは見逃さなかった。自分の声に興奮されるのは男としてどうなのかと一瞬思ったが、その相手がテオならもうどうでもよくなった。
 あれだけ性行為に難色を示していた彼が、自分から気持ち良くしたいと言い出し、尚且つ気持ち良くなりたいと自覚し始めている。テオ一人ではきっとそうはならなかった。アルフレッドがそうさせた。
 完全に冷静さを取り戻したかと思っていたが、そうではなかったらしいアルフレッドの火照った頭では、それを自惚れだと疑うことはなかった。「僕を男の子にしたのはアルだよ」と、テオの言葉を脳裏で反芻する。
 テオが望むなら、なんだって――アルフレッドの原動力はここでも揺らぐことはない。内緒話をするように、しかし精一杯色を滲ませた声で、アルフレッドはテオに囁いた。
「……もっと気持ちいいこと、するか?」

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